デパ地下物語
私は以前、大手デパートで働いていた事がある。
担当は地下の全国の銘菓を取り扱う店舗。
デパートは店員も客も色々な人が居て、面白かった。
いつも【ひよこ】を何箱も買って、2つの手提げ袋を紐でつなげてリュックのようにして持って帰るおじいちゃん。
何を買うでもなく、肩に腹話術の人形を乗せて店内を練り歩くひと。
林家ペー・パー子夫妻が普通に買い物に来たこともあった。とってもピンクだった。
デパートには店員向けの決まり事も色々あり、それも興味深かった。
トイレに行ってくる時は「2番行ってきます」と言う。なぜ2番なのだ。1番は何なのだろう。
私の売り場では、他の番号は言ったことも聞いたこともなかった。
多分、食事休憩も番号がありそうな気がするが、みんな「食事行ってきます」と普通に言っていたので分からないままだった。
音楽や放送で指示を出すというのも面白い。
雨が降ってきたら『雨にぬれても』、雨が止んだら『虹の彼方に』を流すのは知っている人も多いのではないだろうか。これを聞いて、店員は客に渡すショッピングバッグに雨よけのビニールカバーを付けたりする。
爆弾予告がきた時用の音楽というものもあった。私は1度だけ流れたのを聞いたことがあったが、結局イタズラだった。聞いた話によると、たまに有るようで大体イタズラで終わるとのことであった。(本当だった場合は大変な事であるが)
万引き常習犯や不審者などを警戒するための放送というものもあった。これが流れると、指定の場所に警備員がそれとなく集まって来る。
何気なく流れている店内放送を使って、上手いこと業務を行っているのだなぁと感心した覚えがある。
社員食堂は上層階に2つあって、定食ゾーンと軽食ゾーンに分かれていた。
私が好きだったのは、うどんにコロッケとおぼろ昆布を乗せたもの。確か300円くらいだったと思う。安くて美味かった。
閉店時間になると、地下の食品店舗で売れ残ったお惣菜やお菓子類などは、店員向けに更衣室前で値引きして売られる。
串カツやらカツサンドやらプリンやら、ありとあらゆるものがお得に買えて、労働を終えて腹ペコだった私には天国のように思えた。
ここで普段買った事なかったけれど覚えた商品がいくつもあった。
菓子コーナーなので、ケーキの売れ残りを、ホール丸々タダで貰ったことも何度かあった。そりゃあ太るというものだ。でも大変美味いものばかりだった。
私が美味しかったなぁと思う菓子を3つほど紹介しよう。
●マキシム・ド・パリのナポレオンパイ
サクサクのパイ生地にクリームとイチゴがたっぷりサンドされた、大人気の看板スイーツ。
残念ながら店舗が閉業してしまったが、GINZA SIXで食べられるという噂。
しっとりしたチョコレートスポンジを、ジャムと口溶けの良いチョコレートでコーティング。乳脂肪分の高いクリームを添えて食べると絶品である。
●柏屋の薄皮饅頭
日本三大饅頭のひとつで、福島県の銘菓。黒糖を感じさせる薄い茶色の皮に、たっぷりの餡子が包まれている。ほうじ茶と合わせて食べると最高。
以上の3つは本当に美味しいので、ぜひ機会があれば一度ご賞味頂きたい。
楽しかったのでまたデパ地下で働きたいなぁとも思うが、一日中座り仕事しかしていない今となってはもう、立ち仕事は足の疲労が半端なくて無理だろうなと思われる。
店員ではなく、客としてたまに楽しむくらいがちょうど良いのかもしれない。という、本日は昔の仕事のお話。